もう、キスだけじゃ足んない。



あーちゃんと私が歩く歩道の先にある、大きなスクリーンがついたビル。

そこには早生先輩のMV、つまり、遥と私が出ているPVがひっきりなしに流れていて。


「あ〜、bondのライブ超楽しみ!
早く遥くんに会いたーい!」

「この間のMVもやばくなかった!?
キスシーンとか死ぬかと思った!」


ビルの下から見上げるように、たくさんの女の子たちがスマホを構えて写真を撮ったり、赤く頬を染めていて。

遥を本気で好きな子たちがたくさんいる……。

CMでも、SNSでも、遥の演技と表現力は、世の女の子たちの間で話題沸騰で。


「もう遥くん、最っ高!」


元々大人気だった遥の影響は凄まじくて。


「っ……」


いやだ、こんな自分。

遥の名前が広がっていくことは喜ばなきゃいけないことで。

遥にとって、bondにとって、これ以上にない、たくさんの人に名前を知られる最高の機会なのに。


「胡桃……」


胸が、痛い……っ。

つないだ手にぎゅっと力がこもった。

遥が芸能界にいる以上、これくらいのことは元々頭では理解して、覚悟していたはずなのに。

遥を好きな子が増える。

遥自身やbondにとっての成功を素直に喜べない自分が醜くく思えて、苦しくて。


「っ……」


自分がこんなに嫉妬深かったなんて、初めて知った。


「胡桃、大丈夫?」

「うん……大丈夫だよ」


でもこんな小さなことでくよくよしていたら、だめだ。

なんのために、遥が待っててくれたと思ってるの。

私が自分に自信がつくまで、ずっと待っててくれて、やっと隣に立てたとき、ただ幸せだと笑って全てを受け入れてくれた。

だから私も。

隣にいる以上は、胸を張って彼女だと言えるように。

桃華も言ってたじゃない。

今は踏ん張り時だって。


「ねえあの子、もしかして……」

「っ!!」


「マスクしてるから分かんないけど、遥くんの相手役の子じゃない?」