もう、キスだけじゃ足んない。



雄……とかなんとか聞こえたのは、気のせい?

杏、見かけによらず……うん、これ以上の詮索はやめよう。

「うっわ、もうこんな時間!
あたし戻らないと!」

「ちょっ、話逸らさないで……って、うわっ、思っていた以上に時間過ぎてた……あたしたちも帰ろっか」

「うん」


時刻は18時。帰って夜ごはんと、朝ごはんの準備しなくちゃ。


「じゃあね、あすみ!胡桃!
また話そうね!」

「今度はさっきの続き聞かせてね〜!」

「もうっ、それは終わったから!」


ふふっ、かわいいなぁ、桃華。

またボンッと赤くなって、慌てて走っていく姿をあーちゃんと手を振って見送る。


「あ、胡桃!」

「ん?」


どうしたの?何か忘れ物?

走っていく途中でなぜかピタリと止まった桃華は、その場で振り返ると、まっすぐ私を見つめて。


「気負けしちゃ、だめだよ」

「っ!!」


どうして急に。なんて、言えない。

桃華が言わんとしていること。


気づかれてた。
やっぱり桃華には分かってしまうんだ。

だって双子、姉妹だから。


「あたしも、同じだから」

「それって……」


明るい表情から一変、顔に暗い影が差して。

伏し目がちに切なく笑う桃華。


「杏と付き合ってから、また……ね」

「ほんと、に……?」

「うん。さっきは強がって心強いなんて、言っちゃったけど、本当はめちゃくちゃきついよ……」

「ももか……」


芸能界にいる桃華なら、一般人の私よりも直接言われることや、当たりが強いことなんて日常茶飯事で。

私なんかより、もっと、もっと……。


「胡桃」

「……」


「そんな顔しないで?あたしは大丈夫だから」

「うん……私も大丈夫、だから」


「うん。こういうのは一時騒がれるけどすぐに終わるが来るから。今はお互い踏ん張り時」

「うん」


「じゃあまたね!
あすみ!胡桃のこと、よろしく!」

「ほーい!」


桃華……。


薄暗いからはっきりとは分からなかった。

でも、一瞬目元を拭って見えたのはうそじゃないし、敢えて私は言わなかった。

きっとメイクで隠しているんだと思うけど……。

隈がひどかったし、顔がすごく疲れていた。


「さすがお姉ちゃんだけあって、妹のことはなんでもお見通しだね……」

「う、ん……」


あーちゃんがそっと手を握ってくれた。


最近ますます涙腺が弱くなった気がする。


桃華の痛みは私の痛みでもある。

だって、姉妹。運命共同体だから。

桃華が必死にがんばっているんだから、私もがんばりたい。

そう思うのに。


「にしても、2ヶ月は長いね……」

「うん……」


まだ1ヶ月しか経っていないのに、私の心は毎日空っぽみたい。

前に遥が、

声が聞けない、目も合わない、名前を呼ばれない。

それだけでもう限界で、荒れまくったって言ってたけど、今ならわかる。

遥が好きすぎて、どうにかなりそうだって。


「遥くん、ますます人気出ちゃったね……」

「うん……」