もう、キスだけじゃ足んない。



「清見……日向さんの撮影、今からどれくらいかかる?」


「あとに胡桃ちゃんとのシーンが控えてるから、軽く1時間くらいかな」


「了解。胡桃」


「っ、な、なに?」


あ……。

名前を呼んだ瞬間。

ひくりと体を震わせた胡桃に、高ぶっていた気持ちと頭が急速に冷えていく。


「っ……さっきは驚かせてごめん。
時間までふたりで過ごそう」


「うん……」


背中に手は回したまま、ゆっくり歩くように促せば、


『よかった……いつもの遥に戻って』


ホッとしたような胡桃の声にぎゅっと胸が苦しくなる。


っ……だめだ、俺。

胡桃の声が聞こえなくなるくらい、胡桃の歩くペースに合わせられなくなるくらい、自分の気持ちが暴走して、周りが見えていなかった。


前も胡桃の声無視して、服脱がそうとしたことがあったけど。

もうあのとき以上に。

ここが現場だってことも忘れてしまうくらい、今すぐ胡桃がほしくてたまらなくて。


「遥……?大丈夫?」

「ん、大丈夫だよ」


見上げてきた瞳は心配と言わんばかりに揺れていて、胡桃には見えないよう、グッと握りこぶしを作って、一瞬目を閉じた。


たりない、たりない。

キスだけじゃたりない。


胡桃がほしい。

すべてがほしい。


抑えられない。


もう、限界だな……。