もう、キスだけじゃ足んない。



「おつかれ、遥、胡桃ちゃん。
一旦日向1人の撮影が続くから、しばらく休憩……」


「胡桃。早く楽屋行こ」


「おい、遥!?」


「は、遥……っ」


清見のことは完全にスルーして、その肩をグッと引き寄せて足早に歩き始める。

彼女のこんなかわいい姿見て、我慢できる男がいたら見てみたい。


早く、早く。


ふれたい、抱きしめたい、キスしたい。

はやる気持ちが抑えられない。


たりない。

もうキス以上。


胡桃を好きになったときからずっと。
抱えてきた想いは膨れ上がって、限界を超えて。


胡桃のすべてがほしくてほしくてたまらない。

めちゃくちゃにして、ぜんぶを俺のものにしたい。


ここ最近、特に。


胡桃が素直なところを見せてくれる度に、仕事で胡桃と離れるってわかる度に。

他の男が胡桃に近づこうとするのを見る度に。


その服を脱がせて、全身をかわいがって。


今すぐ胡桃は俺のだって刻みつけたい衝動が。

ドロドロとした独占欲が。


込み上げてきて、抑えられなくなる。


「遥……?」

「……」


早く、早く。

ふたりになりたい。

キスしたい。


「ねえ、遥……っ」

「……」


ドッドッドッ。

心臓がものすごい速さで波打ってる。


なにも聞こえない。

自分の心臓と呼吸音しか聞こえない。


『どうしたの……っ、なんで早足……っ』

「遥……っ、ちょっとまっ……」


早く、早く。

その手をとって押し倒して、早く俺を……。


「遥……遥っ!!」


「っ、え……」


瞬間。

少し怒鳴るように聞こえた清見の声。

足早に歩く俺の前に、どこか真剣な顔で、立ちはだかったのは。


「早生、先輩……」


胡桃の声にハッとして正面を見れば、日向さんが真剣な顔で俺を見ていて。


「今からしばらく俺だけの撮影で、そのあと胡桃ちゃんとのシーンになるんだけど。その前に、ちょっといい?話があるんだ」


「……いい、ですけど」


「じゃあ、よろしく」


頭にまで響くくらいうるさい心臓の音と、余裕のなさがバレないよう、なんとかうなずけば、無表情のまま日向さんは去っていく。


なんだ?話って。

胡桃のこと?


けどとりあえず。