胡桃がまた俺から離れていくなんて、想像しただけでも泣く。
というか、一生立ち直れない。
そんなことを考えながら悲しい表情を作って、その背中を見つめ続けて。
「はい、カッート!
おっけえ!」
さいっこうによかったよ!ふたりとも!
「はぁ……」
響き渡った監督の声に、ほっと胸をなで下ろした。
「胡桃」
「遥……!」
同じく少し離れたところでホッと胸をなで下ろしていた胡桃に駆け寄って、いっしょにセットを離れる。
「ほんと、どうしようかと思った……」
『演技のためってわかったからよかったけど、あんな、キス、とか……』
ほんのり赤い顔のまま、何度も胸の辺りをなでる胡桃。
ちょっとやりすぎたかな……。
「ごめん、驚かせて。
けどそのおかげで、胡桃うまく離れられたじゃん」
「え……?」
ふっと顔をあげた胡桃の頭をなでて、視線を合わせる。
「だって、カメラ回ってんのに、それでも離れたくないって、どれだけ俺のこと喜ばせたら気が済むの」
「あっ……!そ、それは、」
『つい、言っちゃって……本当のこと……』
「へえ?」
「あっ、ち、ちがう!ちがうから!
あれは、べつに本当のことじゃなくて……」
かーわい。
無意識に言ってしまったらしい心の声。
慌てて顔の前で手をブンブンする彼女にいじわるしたい気持ちがむくむく湧き上がってくる。
「へえ?
かわいい声我慢すんのにあんなに必死になってたのに、本心じゃなかったの?」
「っ……は、遥の思い違いじゃ、」
「ちがうの?」
『っ……ちがく、な……』
「し、知らない……!」
ボンッと首まで真っ赤になった彼女。
あー、もうだめ。
口ではなんも言ってないのに、心の声、本心が聞こえるってほんと最高、超かわいい。



