もう、キスだけじゃ足んない。



「好きだよ」

「え……っ」


「ほら、声出しちゃだめ」


『っ、でも……!』


うしろからぎゅうっと抱きしめたまま。


するするとカーディガンを脱がして、今度は首に顔をうずめる。


っ!?


現場の空気が、さっき以上に揺れた気がした。

よしよし。

まだ監督の声がかからないのも想定済み。



「消毒。
さっき日向さんに首、キスされてたろ」


じっと日向さんが俺たちの演技を見ているのがわかる。

嫉妬させられたお返しだよ。

あなたがふれたとこ、ぜんぶ俺で上書きするんで。


そんな気持ちを込めて、あえて目線はカメラに向けたまま。


髪から耳、首に唇を這わせて。


『あれは、されてない……!
してるフリだよ……!』


知ってるよ。


「ほんとに?
じゃあ確かめさせてね」


「っ!!」
『ほんと、なのに……』


わかってる。わかってるよ。

キスも、なにもされてないって。


けどあえてふれて、口づけて、痕までつけるのは、日向さんに見せつけるため。


俺は胡桃の彼氏だから、ここまでふれられることを許されてるんだって。

胡桃にふれていいのは俺だけなんだって。


それもあるし……。


「ほら、早く突き放して」


これ、演技だから……!


胡桃が俺を突き放してくれるようにするためでもあるから!

さっきちょっと強引にするって言ったの、もう忘れた?

日向さんのときはあんなに淡々とこなしてたのに、俺が相手になったとたん、いっぱいいっぱいになる彼女に、また頬が緩みそうになる。