清見の声を聞き流して胡桃の元へ向かう。
あ。
「……」
「……」
一瞬。
日向さんとすれ違うタイミングでチラッと俺を見た気がしたけれど、それには気づかないフリをして、またまっすぐ胡桃の元へ向かう。
「胡桃」
「遥……!」
次は俺のターンだ。
俺が声をかけたとたん、ホッと安心したように走って駆け寄ってくる胡桃に思わず笑みがこぼれる。
「おつかれさま。
めちゃくちゃよかったよ」
「ほんと!?よかった……」
胸をなで下ろすその小さな頭をゆっくりなでる。
稽古もレッスンもなにも受けてない中で。
プロの日向さん相手にめちゃくちゃ緊張しただろうに。
それを思わせないほどの自然な演技。
ほんと、よくがんばってる。
「ちょっ、遥……!」
『腰!腰に手!
離して……!』
「いいじゃん。
がんばったごほうびだよ」
という名の、周りへの牽制。
グッと腰に手を回して引き寄せて、耳元で囁く。
「っ、もう……」
『いろんな人に見られてるのに……』
でも、ほんのり頬を赤く染めながらも、ツンと返されるのは一瞬で。
『ちょっと、だけだから……』
あー……ほんとにかわいい。
視線は下へ向いたままだけど、そのまま素直に受け入れてくれる胡桃に胸が弾む。
最近ますますデレが加速してて、正直心臓がいくつあってもたりない。
まあ俺としては、もっともっと、ツンがなくなるくらいまでデレてほしいんだけど。
ツンもかわいいけど、素直に俺を受け入れてくれるデレも最高に好き。
俺の手で胡桃が変わっていくんだって。
それくらい、俺が好きなんだって思えるから。
「胡桃ちゃん、遥くんの前ではあんなに笑うんだ……」
胡桃をかわいいかわいいと騒いでいた男のスタッフたちのヒソヒソ声に心が満たされていく。
そうなんだよ。
知らねーだろ、おまえらは。
『っ、やっぱ無理……!はずかしい……っ』
「はずかしくなんかない。
つか、周りじゃなくて俺を見てよ」
「は……」
「だって俺が胡桃を大好きなように、胡桃も俺のこと大好きだもんな?」
『だからここ、どこだかわかってる……!?』
わかってるよ。
わかってるから見せつけてんの。



