もう、キスだけじゃ足んない。



「……」


そのまま先輩は、私から顔を離すと、ゆっくり首に顔をうずめて。


するりと肩にかかっていたカーディガンを脱がしながら。


っ……。

唇は直接はふれていない。


でも、首や耳にかかる吐息のくすぐったさに、思わず目を閉じる。


……それからいつまでそうしていたのか。


ん……?


スっと先輩が離れた気がして、ゆっくりゆっくり目を開ければ。


「監督」


「っ、えっ!?」


「今のシーン、あとでもう一回いいですか」


え……?


その言葉に勢いよくベッドから起き上がれば、先輩は一瞬私に目を向けたけれど、すぐに逸らされて。

どこかをまっすぐ見ながらニヤリと笑った。


「えっ、はっ!?
カット!カッーーート!!
えっ、ちょっと待って!?今のめちゃくちゃよかったのに!?」


騒然とする現場に、監督の泣き叫ぶような声が響き渡る。

けれど、そんな監督の声を無視して、ますます先輩はにっこり笑って言った。


「今のシーン、あとでもう一度お願いします、監督」


それと。


「気分転換に、とりあえず他のカットからお願いしてもいいですか」