もう、キスだけじゃ足んない。



クンッと腕を引かれて。


「目、あけて」


「っ……」


「ん、いい子だね」


甘い声が降ってくる。


片手は先輩に掴まれたまま、もう一方は先輩の顔の横に。


気づけば、跨ってる状態。


「胡桃……」


だからなんで名前……!?

なんて思っているうちに。


っ!?

ドサッ────。


ぐるっと視界が反転して、


っ、な、なん……。


背中はふかふかのシーツ。

視界いっぱいに映るのは、ほんのり暗い照明と……。


「……」


まっすぐ私を見つめる先輩の顔だけ。

監督からカットの声がかからない。

もしかしたらこのまま演技を続けろってことなのかな……。


「胡桃」


さっきみたいに。

ゆっくり手首から上がった手が指に絡む。


あ……。

顔を近づけてくる先輩。

完全にアドリブ。

先輩がなにを考えているのかはわからないけど……。

応えるように、先輩の手を握り返した瞬間。


「ふっ……」


え?

なぜか、目を細めて小さく笑った先輩は。

そっと私に顔を近づけて……。



っ!!


その瞬間。

現場の空気が一気にざわっと揺れた気がした。