「どうしたの日向くん」
っ、そ、そうだった……!
体は離れたけれど、まだ先輩と手つないだままだった。
「あの、先輩……一旦手、離し……」
「今のシーン、もう一回いいですか」
「え?」
「えっ!?」
同時に、手にぎゅっと力がこもった。
も、もう一回?
「えっ、でも今のはあれで……」
「もう一回お願いします」
目を白黒させる監督さんに、先輩は何度もお願いしますと伝える。
「んー、そこまで言うならいいけど……。
メインは日向くんなんだしね、気が済むまで付き合うよ」
「ありがとうございます」
ごめーん!もう一回!
カメラ準備してー!
他のスタッフさんのほうへ、監督さんが走っていく。
「あの先輩、どうし……」
「じゃあ撮影はじめまーす!
本番5秒前、4、3、2……」
私の声に被さるように聞こえたスタッフさんの声に慌てて目を閉じる。
「胡桃ちゃん」
今度は最初から、グッと後頭部を引き寄せられた。
「顔、あげて」
「っ……」
「こっち、見て」
俺のこと、見て。
耳を震わせるほどの甘ったるい声。
つないだ手から伝わる優しい体温。
「好きだよ、胡桃ちゃん」
そっと目をあけて飛び込んできたのは。
変わらず愛おしいと言わんばかりに見つめてくる、私の大好きな顔。
────好きだよ、胡桃。
「カット!カッート!」
!?
「どうしたの日向くん!」



