もう、キスだけじゃ足んない。



ひぃいいい!!

近い近い!!


グッと腰に手を回されて引き寄せられる。


「おおっ、さっすが日向くん!
いいね、いいね!で、ふたり、ここでおでこコツンやろう!」


お、おでこコツン……。


「胡桃ちゃん」


「っ……」


なにかに誘われるような甘い声。

すりっと擦り寄せるように、そっと合わさった額。


っ、こっち見ないで……っ。


視線を下へ下へと向ける私へ、先輩の視線がビシバシ感じる。

せめて下見て、下……!


「そして手をつなぐ!」


手もつなぐの……っ!?


「監督。提案なんですけど、手、こっちより……」

!?


「こっちのほうが、もっと恋人感出ますよね」

「さっすが日向くん!
責めるね〜!」


恋人つなぎ……。


腰に回っていないほうの手でぎゅっと片手を握られて。


「っ……」


監督さんのはしゃぐ声がどこか遠くで聞こえる。


「じゃあこのまますぐにいっちゃおう!!
胡桃ちゃん、今度は顔も映るから、演技よろしくぅ!」


「は、はい……」


なんとか絞り出した声は掠れていたと思う。


「ねえ」

「っ!!」


思わず反応して顔をあげたら、鼻がぶつかる距離で視線が交わって。


「胡桃ちゃん……」


腰から、グッと後頭部に手が回ったけれど、俯いてそっと目を閉じる。


ぎゅっと絡み合った手。

感じるのは、細くて長くて、布越しで……ううん、ちがう。

私が感じるのはもっと……節くれだって、ゴツゴツして、男の人らしい手。


額から感じる体温も、絡まった指や手のひらから感じる体温も。

ドキドキして、心があったかくなる、ずっと変わらない優しいもの。

ゆっくりゆっくり目を開けて、前を見据える。


ああ、やっぱり……。

その目の色は、私だけに見せてくれるもの。

やわらかく細められて、変わらず愛を紡ぐ……。


「はい、カーット!
OKふたりとも!」


っ!!


び、びっくりした……。

監督さんの声大きいからいちいちビクッとしてしまう。


「胡桃ちゃん、今回もよかったよ〜!
ちょっと慣れてきた?」


「は、はい……」


「おっけ!次もこの調子で頼む……」


「監督」