もう、キスだけじゃ足んない。



「っ……」


頭上から、息を呑んだような音が聞こえた気がした。


「っ〜、はいカーット!!よかったよー!
ふたりとも!」


それからすぐに、監督が走って私たちのところへ駆け寄ってくる。


「やっぱり胡桃ちゃん演技の才能あるよ!
ちゃんと体の力抜けててよかったし、やっぱり日向くんのおかげ?」

「ち、ちがいます……」


肘ツンツンするのやめて……!


ほんと、先輩の話になるといつもニヤニヤしてるな、この人……。


でもよかった……。

一発目でNGとか言われたらどうしようかと思ってたから。


「日向くんも!リードありがとね!」

「いえ……」


ん?

どこか煮え切らない返事に、監督さんは首をかしげる。


「日向くん?どうかした?」


「いえ、なんでもないです……」


「あの、先輩……?
どうか、しました……?」


なんとも言えない顔で見つめられて、ホッと胸をなで下ろしていた手をピタッととめる。


「胡桃ちゃん、さっき……」

「え?」

「ううん、次もがんばろうね」


そう言って先輩はいつも通りにこっと笑う。


なんだったんだろう、今の……。


「OK!気になることあったらいつでも言ってね、日向くんの曲なんだし!じゃあ次、ベッドのほう移動しようか!手つないで、見つめ合うシーン」


も、もうベッドのほう行くんだ……。

そうだよね、いくらMVとはいえドラマとはちがって展開も早いよね……。


遥以外の男の人とベッドに……。


ドクンドクン。

鼓動が瞬く間に速くなる。


「じゃあ、ふたりともここに座ってもらって……うん、そう。で、もっと近づいてくれるかな?」


「も、もっとですか……?」


「もっと」


肩がぶつかる距離。

こんな近いのにもっと!?


「胡桃ちゃん」


「っ、せ、せんぱ……」


「恋人なんだし。これくらい、近づかないと」