もう、キスだけじゃ足んない。



「そこに立って……そうそう、」


ほんのり暗い照明とアンティークの窓。

すぐ目の前に、先輩のネクタイがある。


「日向くんは、腰と後頭部に手回して全身包む感じ。胡桃ちゃんは背中しか映んないから、手は下ろしてていいよ」


「はい」

「わかりました」


「胡桃ちゃん」


「はい」


「さわって、いい?」


「大丈夫、です……」


瞬間。

ぎゅうっと抱きしめられて、深く腰と背中に腕がまわる。


「うんうん、いい感じ。
じゃあ、このままはじめよっか!」


ふたりはそのままねー!

そう言って監督がはけていく。


「胡桃ちゃん」


「はい」


「俺の言ったこと、覚えてる?」


「なにを、でしょうか」


「撮影中は、俺も1人の男として見てほしいって」

「はい……」


グッと腕に力がこもって。


「俺にも腕、回して」

「……わかりました」


「えっ、いいの?」

「大丈夫です」


スパッとはっきり言ったからだと思う。


頭上で驚く声が聞こえる。


そうだよね。

最初ヒロインの話をされたとき、あんなに渋ってたんだもん。

それに、この撮影もずっと遥に見られてるってわかってるし。


「本番5秒前、4、3、2……」


そっと先輩の背中に手を回して、ふっと目を閉じて。

胸に擦り寄ったその瞬間。