もう、キスだけじゃ足んない。



「桃華、前に言ってたよね?
体さわってこようしたり、つきまとわれた嫌なスタッフがいたって。それからコスプレ雑誌は、トラウマになったって」


「覚えて、たの……?」


だってあれ、あたしがデビューして、まだそんなお仕事がなかったときにしてたやつだよ……?


「覚えてるよ。
好きな子がそんな目に遭って、忘れるわけない」


胸元へと落ちていた顔がそっと上がって、こつんとおでこがぶつかる。


「俺、許せなくて。
あのとき言わなかったけど、桃華に内緒でそいつんとこ、直接言いに行ったんだよ」


さすがに黙ってられなくて。


「え……ええっ!?」


直接言いに行った!?

本気で言ってる!?


「最近見ないなー、あの人。
どこ行っちゃったんだろ」


なんて。


「な、なに言ったの?」

「んー?ちょっとお灸を据えただけだよ?」


にっこり笑う杏。

これ以上は、怖くて聞けない……。


「なのに、またMateの撮影……なんとなく遥とそうなんじゃないかって話はしてたけど、桃華の姿見たとき、遥じゃないけど、俺千歳くんのこと、まじで……」


「あーあーあー!
わかった!わかったから!」


「なにがわかったの?」


「ごめんなさい……あたしのトラウマのこと知ってたのに、撮影のこと、黙ってて。ちゃんと、相談すべきでした……」


「ん。けど元はと言えば、桃華のトラウマのことわかってたのに、現場に連れてった千歳くんが一番でしょ」


「うん……」