もう、キスだけじゃ足んない。



ドアのすぐ下にしゃがみこんでいたその人。


「はぁ、はぁっ、」


ふっと上がった顔はどこかで見たことあるような、ないような。


パーマのかかったシルバーの髪に、同じ色のリングピアス。


バサバサのまつ毛に、切れ長の二重の瞳。

スっと通った鼻筋に、薄い唇。


身長も高そうで、いくらサングラスやマスクで変装していても、圧倒的オーラが隠せなさそうな雰囲気のこの人。


「っ、ぐっ、はぁ、」



おでこから玉のような汗が噴き出してる。


胸の辺りをぎゅっと押さえて。

目も涙になっていて、呼吸しづらそうで。


熱中症……?

いや、ちがう。


喉の奥から音がする。


これは……。


「大丈夫です。ゆっくり息吸って、吐きましょう」


すぐ隣に座って、背中をゆっくりなでて。


「はぁ、はぁ、」


「大丈夫ですよ。私がいます。
ゆっくり、息吸って、吐いて、」


過呼吸のときは、とにかく落ちつかせることが一番大事。

前に桃華が仕事からくる寝不足でなったことがあるから、わかる。

水とか飲ませたり、袋を当てるよりも、気持ちを落ちつかせること。


呼吸を整えること。


これだけで大丈夫。


過呼吸は基本的にストレスから来るものが多いらしいけど、寝不足が原因でもあるって聞いた。

だから、肯定してあげる。


大丈夫、隣にいるって伝えるだけで、十分な効果になる。