もう、キスだけじゃ足んない。



『断る……は、無理なんだろ?』

『まあ、そうだね』


あー、くっそ。

いつになく髪をぐしゃぐしゃとして、ため息をつく遥。


同じ仕事をしてる立場だから、清見さんの気持ちもわかるんだと思う。


あーちゃんはすぐにOKしてたけど、あくまであーちゃんも私も一般人。


プロのモデルさんなんかとは顔もスタイルも比じゃないし、できっこないって断ったんだけど……。


あまりに何回もお願いしますって言われて、挙句に今からそっち行って土下座してもいいとか言われたら、もう……。


『はぁ……』


『ごめん、遥……』


『なんで胡桃が謝ってんの』


前のめりになった遥は私の頬へと手を伸ばすと苦笑い。


『遥。俺たちやっぱちょっと外出てくるね』

『ん、ありがとう、ふたりとも』


杏と桃華が出ていったリビングで。


『胡桃、ぎゅーしよ』

『うん……』


そっと手を引かれて、腕の中に閉じ込められる。


『モデル……ほんとは、してほしくない』

『ごめんね……』


『胡桃、なんもわるくないじゃん。
清見……もそうだけど、ただ俺がいやいや言ってるだけで』


『そんな……』


ポンポンと頭をなでてくれる手に、ぎゅっと胸が締めつけられる。


『明日だし、急だし。今から断るとか無理だろうから、今回は特別に、許す』


桃華と天草もいるって言うし。


『うん……』


『でも、今回みたいなことあったら、うなずく前に絶対俺に相談して。今みたいなことじゃなくても、どんな些細なことでも』


『うん、ありがとう、遥……』


『あー……明日仕事なかったら、胡桃のとこ行けたのに。今から休んでそっち行こうかな』


『……気持ちだけ受けとっとくね』