もう、キスだけじゃ足んない。



「なにかあった……いや、なんもないってわけじゃないと思うけど、だれかに何かされた、とかではないんだよね?」


「うん。あたしがいろいろ感極まっちゃって、泣いちゃっただけだから。ごめんね、情けない姿見せちゃって……」


「いや……それを言うならむしろ俺の方だよ。
勘違いして、ごめん」


俺の部屋に桃華を通して、ラグの上に並んで座る。


「杏、聞いてくれる……?」


「うん。
ぜんぶ聞く。聞くから、教えて」


いつもの桃華とは思えないほど、小さくて、不安げな姿。

大丈夫だよ。


俺はなにを言われても、なにがあっても今度こそ桃華から離れない。


そんな気持ちを込めて両手を包み込めば、肩から力が抜けた気がした。


それから教えてくれた。


芸能界に入ったころのこと。

胡桃とのこと。


そして……。


「自信がないとか、身勝手な理由で、杏のこと振って、傷つけた……本当に、ごめんなさい」


「ずっと、杏のこと、好きで……でも一度振ったくせにまた待たせて、こんな自分がまた好きって言っていいのかなって……」


ぎゅっと唇を噛みしめて、涙をこらえるように、肩を震わせるその姿に。


「ごめんなさい、」


もう謝らないで。


「桃華」


「ごめんなさい、杏……」


もうそんな顔しないで。


「桃華」


「ごめん、杏……っ、ん、」


もう、頼むから。



「桃華、俺のこと、好き?」