もう、キスだけじゃ足んない。



「桃華」


どこか諭すようなその声に、桃華は胡桃のほうを向く。

「ちゃんと、言うんだよ」


「……」


「はずかしくても、怖くても、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらない」


「うん……」


今度は俺がポカンとする番。

え、まじでふたり、なんの話してる……?


いつになく胡桃は真剣な顔してるし、というか、いつものふたりの立場が逆なような……。


「あの……杏……?」


「え、な、なに?」


やばい、声上ずった。


だってだって。

桃華から手つないでくれるとか、これ、夢……?


こんな状況なのに、思わず顔がにやけそうになるのを必死にこらえる。


そっと、どこか窺うように絡められた手と、


「桃華、顔、真っ赤……」


さっきからずっと。

その表情は、きっと……。


「話が、あるの……」


そっと見上げてきた潤んだ瞳には、緊張と決意だけが感じられて。


「部屋、行っていい……?」

「うん」


その言葉と表情に、俺も、強くうなずいた。