もう、キスだけじゃ足んない。


【杏side】


ぎゃああああ!


「え……今の悲鳴……桃華?」


シーンと静まり返っていた部屋に、突如響いたお隣さんの声に肩が跳ねた。


「桃華……っ!!」


気づいたら、走り出してた。

こういうときに限って、うまく履けないくつにイライラする。


「桃華!」


もう、くつなんかどうでもいい。


とにかく、早く。

早く、桃華のところへ。


できればなんの遠慮もなしに上がりたくなかったお隣さん。


だって女の子のふたりぐらし。

いくら幼なじみでお互いを知ってるからって、合鍵持ってるからって、勝手に入っていいわけない。


遥とそう決めた。

用事があるときはちゃんと前もって言うこと、急な場合でも、ちゃんとピンポンを鳴らすこと、合鍵は使わないようにすること。


けど今はそれどころじゃない。


「桃華!胡桃!?大丈夫!?」


桃華と胡桃、ふたりの無事を確認して……。


「え……杏?」

「杏!?」