ーーーーー夕方




「昨日は泣いて、ごめんなさい」


そう始まった莉子の話は
唐突に重くなった


「実家に帰ることにした」


「どうして?」


「日曜日に帰ってみて、そう思ったの」


「通勤に一時間半もかかるのに?」


「うん。平気」


「そこまでするのはアタシのことが嫌いってことよね」


「違うよっ、そんな訳ない!」


「違わないわよ?通勤に一時間半かけても離れたいんだから
此処に居たくないってことでしょう?
ほら、ってことは“嫌い”で正解じゃない」


到底納得できない話だが
俺の思惑にも乗ってもらう


「良いわ、アタシのことが嫌いな莉子を
無理に引き留める程、アタシも鬼じゃないもの」


「だから違うって」


「何が違うの?実家に帰るんでしょう?」


「そうだけど」


「ほら、じゃあそういうことでしょ」


「違うのっ!」


「はいはい、じゃあ、引越し屋手配しておくから」


「凛さん!」


「住民移動届、一週間に二回出すとか
良い経験だったわね」


「聞いて!」


「もう良いじゃない、無理に話さなくても」


「・・・凛、さん」


「出て行くんでしょ?」


「・・・」


「元気で頑張ってね、次はまともな彼氏を見つけるのよ?」


防戦一方じゃなくて
莉子の本心が知りたくて煽る俺に


「・・・凛さんの馬鹿っ!」


漸く、莉子のスイッチが入った


「ハァ??聞き捨てならないわねぇ」


「凛さんの方が私に出て行って欲しい癖に」


ほら、自分を解放して
本心を話してみろよ


「私が気を利かせて」


「なにそれ、アタシがいつ気を利かせて欲しいって言ったのよ」


「楠田さん」


「ハァ?臣がなによっ」


「邪魔しちゃいけないと思って」


「・・・は?」


「パートナーが知らない女と暮らしてたら、私だって嫌だもんっ」


「さっきから、何言ってんの」


「凛さんと楠田さんの邪魔したくないから実家に帰るの」


やっと聞けた莉子の本心に
心の底から喜びが湧き上がってきた