「だけど、BARに色黒を連れて来た日に心が決まった」


「どういうこと?」


「莉子は知らなかったが
この街で色黒は有名なタラシで」


「・・・ウソ」


「だから、莉子には悪いが
店にも来ないように嫌味を言い続けた」


「そうだったんだ」


戯言ではなく
凛さんの本心だった


「莉子が色黒の家を飛び出して泣いていた日
俺にとっては千載一遇のチャンスに思えたし
一緒に暮らし始めてからは、俺を好きになってもらえそうな気がした」


「・・・凛さんに見つけて貰って良かったと思ってる」


「だから昨日、色黒を見かけたって聞いた上に
NEXTOPの社長から電話を貰った時点で
チャンスは粉々に砕け散ったと思った」


「・・・それであんなに怒ってたんだ」


「怒ってはいないが・・・
知らぬ間にマンションの内見に行ってるし
此処を出て行くなんて言うから
ちょっと意地悪言った」


「底冷えする視線で石になるかと思ったし
ちょっとの意地悪どころじゃない」


「揺さぶりをかけて、俺を好きだと白状させただけだ」


「・・・っ、横暴」


「そのお陰で素直になれただろ?」


「・・・うん」


「良い子だ」


頭を撫でてくれる凛さんは
いつもの優しい凛さんで


好きだと認めただけなのに
眼差しまで優しく見えるから不思議


「俺が莉子を好きだって信じた?」


「うん」


「じゃあ」


ソファに座ったまま私に向き合った凛さんは


「俺と付き合ってください」


傷跡の残る手を差し出した