女子トイレに隣接するパウダールームは
ホテルかと見紛うばかりの充実感で


此処で写真を撮れば二割増しで写りそうなほど素敵な照明がついている


「一年半も付き合ってんのに
莉子は飽きたりしないわけ〜?」


口紅を塗りながらも
お喋りが止まらない真澄を笑う


「だって、好きなんだもん」


「ヒャーーーーっ。ご馳走様ですっ」


学部は違っていたけれど大学在学中にも何度か顔を合わせていた彼、清水洸哉《しみずこうや》に告白されたのは卒業式の日だった

サッカーで日に焼けた肌が眩しい
アイドルみたいな可愛い彼は
よくキャンパスで噂になるモテ男だったから警戒対象だったのに


『君に告白する勇気を持つのに
四年もかかってしまったよ
良かったら付き合ってください』


そう告白されてから
付き合うようになるまで二ヶ月

意外にも誠実な彼を好きになるのは早かった

あれから一年半


お互いに社会人二年目
銀行マンの彼との仲は順調で

残業の多い彼を休ませてあげたくて
二人のデートは月に二回程、週末に彼のマンションで過ごすことが多い


それが・・・
水曜日の今日、デート?


本当はデートの約束なんてしていなくて

木曜日の明日が彼の誕生日だから
今日は買い物をして食事を作って

そのままお泊まりをして

日付けが変わると同時に
おめでとうを伝えたいだけの

彼に内緒のミッションなの


だから・・・
朝からお洒落もしてきたし
お泊まりセットも持って来た

本当なら週末に渡す予定のプレゼントもバッグに入れてある

あとは帰りにスーパーに寄って・・・


頭の中で組み立てた予定を反復しながら


「お先に」


「また明日」



付き合ってくれた真澄に手を振って
レガーメの裏口で分かれた


腕時計を確認すると六時
多分、彼は八時を過ぎるはずだから余裕だ


料理の出来上がりを逆算しながら
スーパーへと脚を向けた