振り返ると、ニャ〜と愛らしい声を鳴らしながらキジトラ柄の猫が1匹茂みから出てきて、私の足にすり寄ってくる。

あぅ…可愛い……。


……それだけならよかった。

あとからもう1人、余計なのが姿を見せる。


「ど、どーも~……」


気まずさをその甘いマスクに目一杯滲ませて。


「……いつからいたの」


咄嗟に私から出るのは、感情を一切乗せない声。

対して、答える彼の声はその顔に合った爽やかなもの。


「い、いま来たところ!」

「……どこから聞いてた?」

「えーっと……、『別れてくれ』って言われた辺り、だったかな?」


それほぼオープニング!

導入部分じゃんっ。


あり得ない。

なんでよりによって、聞かれたのがこの男なんだろう……。


渡辺瞬(わたなべしゅん)

甘いマスクと女慣れした言動から“女たらし”の異名を持つ、同級生の男子。


私がこの世で1番関わりたくない男。