「あの時澤田さんは苦しい状況だったんですが、あの対局では中盤まで澤田さんが優勢だったんです。終盤で僕のほうが勝つのかもしれないって思った時、僕の手は震えてしまいました」
西村さんは左手で、そっと自分の右手を包んだ。
「対局が終わって、澤田さんが僕に言ってくれたんです。『全力で戦っていただけて、幸せな対局でした。忘れられない時間をありがとうございました』って」
「そうだったんですか」
「でもそのあと、澤田さんがいなくなってしまって……」
西村さんの声が震える。
「僕はずっと澤田さんの将棋のファンです。誠実な、優しい澤田さん自身にも、きっとずっと憧れ続けると思います」
みぃくん。
みぃくんは、やっぱりヒーローなんだよ。
こんなにも誰かの心を動かせるなんて、かっこいいよ。
「将棋教室までご案内します」
私は西村さんに再び頭を下げた。
「……会ってあげてください。彼に、今の話をしてください。……私じゃ、ダメなんです」
「え?」



