野口さんは不服そうに続けた。
「憧れちゃっててさー、そのイケメン棋士に!で、将棋教室探してさー、地域のね、小さな教室を見つけたわけよ」
「へぇー、いいじゃないですか!」
私の返事に、野口さんは大きくため息を吐いた。
「それがねー、良くなかったのよー!」
野口さんの眉間にはシワが寄っている。
「辞めちゃうんだって、先生が!高齢のおじいさんなんだけどねー」
「えっ!?」
「先月習い始めたばっかりなのによ?嫌んなっちゃう!後任の先生も決まってないっていうから、驚くわよねー」
すると今まで黙って聞いていた木村さんが、
「それでオレにお鉢が回ってきたわけ」
と、野口さんに負けないくらいの困り顔で言った。
「木村さんに?」
どういうことなんだろうと思っていたら、
「木村さん、実は将棋経験者なのよ。だから教室の先生を引き継がないかと思って」
と、野口さんが早口で言った。



