あの日の夢をつかまえて


翌日。

会社の小さな食堂で。

日替わりランチAセットを頼んで、ひとりもぐもぐと食べていたら。



「えー、将棋!?」



40代の男性社員、木村(きむら)さんの驚いた声が耳に飛びこんできた。

思わず振り返ってしまう。

ひとつ後ろのテーブルに頭を掻く木村さんと、その隣に50代の女性社員、野口(のぐち)さんが困った顔で座っている。



「どうしたんですか?」



思わず声をかけてしまった。

ふたりは私に気づくと、
「ちょっと聞いてよー、貴島さーん」
と、手招きをする。



ランチのトレイを持って、木村さんと野口さんの向かいの席に座った。



「うちの下の娘がねー、14歳の中2なんだけど、将棋を習いたいって言い出してねー」



野口さんはまだ困った顔のままで話しだした。



「……なんていったっけ?ほら、今話題になってるイケメン将棋棋士」



私はうなずきながら、どのイケメン棋士のことだろうと考えた。

確か3人くらい、イケメン棋士と騒がれている人がいた気がする。