夏は愛と青春の季節





私の部屋は2階にある。玄関から入ってすぐの階段を上り、左右にのびた長い廊下をひだりに曲がって最初の扉。



あまり家に人を呼ぶことがないけれど、あれは誰だったか……ある人は私の部屋を見て「本の樹みたいだ」と言った。



確かに本棚には小説たちがぎっしりと詰まっている。



それでも足りずにCDを並べるために買ったラックにまで侵食しはじめ、今や4段あるうちの3.5段を本が占めている。

あまりの本の多さに、じぶんで壁に釘を打って板を張り、本棚もどきを作ったりしているくらいだ。本の樹というのは言い当て妙だと思う。



「ユウは沢山の世界をしってるんだね」



そういえばその人は私をユウと呼んでいた。


柚香が訛ってなぜかユウと、彼は呼んでいた。

私はその人を思い出せない。どういった関係なんだろう。なぜ、家に呼んだ?



ぼんやりと輪郭が見えるものの、思い出そうとすれば蜃気楼のように消えてしまう。



それほど昔の記憶という訳では無い。せいぜい数年前なのに、なんで?




毎回私の思考はそこで停滞するのだけれど、今日は記憶の隅にチカチカと青光が浮かんだ。





あれは……そうだ。その人と初めて会った日の事だ。
彼は全身ずぶ濡れで、外は雨が降っていて……。
窓から刺すような光とともに落雷のけたたましい音がしていた。豪雨の日。やまない雨、曇天、雷鳴。


私は部屋の窓辺で本を読んでいたっけ。


そして、繰り返される雷光に驚いて視線を庭の方に向けた、すると門の向こうで傘も持たずに佇む人を見つけた───。