───民家が建ち並ぶなか、そこだけ別の空気を醸し出す洋館。そこが私の家だ。
門構えは2mほど、門外からは園庭が見えた。
毎日、庭師が手入れをしているため、季節によってその風景は変わる。
その奥を抜けると玄関があり、大きさの割にはひっそりと佇み浮世離れした雰囲気の洋館が出迎える。
もうずっと住んでいるのに、未だに自分の家という感覚がない。中帝図書館の方がよっぽど自分の家のような、慣れ親しんだ感じがする。
両親が死んでから、あの洋館も死んでしまったのではないか。そう思うこともしょっちゅうある。
あのころは、庭に咲く花も緋鯉が泳ぐ池も、全部ぜんぶ、生き生きしていた。
生命の光みたいなのを放ち、太陽がこちらを向いていた。だからあの庭は生きていた。
いまじゃ、どこもかしこも昔とは変わらないはずなのに空気が滞っている。洋館は死んだ。庭も死んだ。
なのに何故か私だけは生きている。あの洋館にいるとそんな不思議な気持ちになった。



