夏は愛と青春の季節




閉館の音楽に促されるように中帝図書館をあとにし、帰路についた。途中、杜さんの言った通りミストのような小雨が降ってきた。


「ああ、もうちょっと早く帰っとくんだった」


手をおでこに添えて、のれんをくぐるような格好で家まで小走りしていると、薄暗い曲がり角から背の高い男性が飛び出してきた。


ぶつかる寸前でうまく身を翻した男性は、頭を下げ「すみません! ちょっと急いでて!」と手を胸の前で合わせる。



「……あ、さっきの」


トートバッグの男性だと分かった頃には、ふぁっと細かい雨粒を巻き上げ彼は颯爽と走っていった後だった。


あっという間に後ろ姿は遠くになって、中帝図書館の方角へ消えていった。



ふふっと笑みがこぼれる。
何よりトートバッグを忘れてきたことを思い出してくれたみたいで良かった。

それとも家に着いた時に鍵がなくて焦ったのかもしれない。そもそもカバンごと忘れているのだし。


杜さんもまだいるだろうから心配ないだろう。



本格的に降り出す前に”鈴城邸”へと帰ろう。
私は足早にその場を後にした。