夏は愛と青春の季節






三坂さんと別れ、準備室へと足を向けた。
しだいに歩みは早まり、準備室の扉をが見える頃にはほとんど走っていた。


「先生っ!」





いつもは逃げるように忍び入るので、恐らく相当不気味に写ったのだと思う。
私は息を切らせて扉を開けた。先生は目をまん丸くさせていた。


「ど、どうしたの。ちょっと元気すぎるから先生びっくりしたよ」


「嬉しい事があって」


「それは良かったじゃないか」


デスクに積み上がった資料を端によせ、ニヤリと頬をあげる先生。


「先生こそ、なにかいい事あったの?」


「実は僕もちょっと面白いことがあってね」


視線を書架の奥へ向ける。この日はすでに先客が一人いた。

準備室の奥で本の整理をしているらしかった。


「あれ? 珍しいね、先生以外にいるなんて」

「そうなんだ。今日から研修にきている葉倉くん」

「葉倉くん……」


どこか聞き覚えのある名前に首を傾げていると、キャスターの付いた椅子で上手に回った先生が「おーい、葉倉くん」と後ろの書架へ声をかけた。


すると少し気だるげな返事が返ってくる。


「……ああ、すみません。生徒さんですか……」


先生のデスクの後ろの書架から顔を出した一人の男性。
私と目が会った瞬間、お互いにピタッと固まってしまった。