ひとつ予想外だったのは、お昼休みいつもの如く準備室に向かおうとしていた時だった。
「柚香ちゃん、柚香ちゃん」と後ろから声がかけられた。
振り向くと三坂さんで、私は驚いた。
あれっきりになってしまうと思っていたから、まるで幽霊を見たような気持ちになった。
「え? どうしたの?」
なんとなく小声で聞く。学校で話すことなんで滅多にないから、無意識にコソコソしてしまう。
「なんでそんな小声?」
三坂さんに笑われたけれど、私はこの状況に戸惑いを隠せないでいた。
「いや、話しかけられるとは思ってなくて」
「朝も話してたじゃん」
「まあ、そうなんだけど……」
三坂さんがあまりにも普通に話しかけてくるので、随分前からの付き合いのような錯覚を覚える。
「それでね。次の現代文の授業さ、グループで小説の考察をまとめるって言ってたじゃん?」
「言ってたね」
「あれ、一緒にしない?」
「ああ……えっと」
私は咄嗟に、嫌な考えが過ぎった。
それは、声をかけてくれた理由についてだ。
よく本を読んでいる私は役に立つかもしれないという打算があるからなのか、というもの。
少し俯いてから、こくんと首を縦に振る。
「いいよ、一緒にやろう」



