「去年なんだけどね。学校終わって私、いつもはすぐに帰るんだけど。
その日は忘れものに気づいて取りに戻ってきたの。
で、教室に向かってた時隣のクラスからすすり泣く声が聞こえてきたから何事かと思って覗いたの。
そしたら三坂さんと羽生さんがいて」
三坂さんは息をつくような弱い声で「ああ」と応えた。なんとなく話の内容を掴んだ、といったふうだった。
「確か去年は隣のクラスでいじめみたいなのかあって問題になってたんだよね?
噂では……三坂さんがいじめてるってことになってたけど、後になって本当はあなたの友達が裏でコソコソやってたってことがわかった」
「うん。……あの時、自分が噂の対象になってることすらも知らなかったし、いじめのことも全然知らなかったの」
三坂さんは関係がなかった。関係ない、というか彼女の見えないところで行われていた。
否、見えないように行われていた。
皮肉なことに友達の方が三坂さんのことを知っていたということだろう。
知られれば何を言われるか分からないと、それが分かっていたから見えないところで行われていた。
べつに三坂さんが負い目を感じる理由などどこにもない。
「あの時見たのは三坂さんが謝っているとこだったの。
『ごめんね。私の友達がそんなことをしていたなんて気づかなくて、ほんとにごめんなさい』
って、あれを見てからいじめの話はパッタリ聞かなくなったよね」
「それは、私が3年間で一番思い出したくない思い出だよ」
あまりにもしんみりさせてしまって、私は喋りすぎたことを後悔する。
三坂さんの心を抉るつもりで話したわけではないので余計に私は申し訳なくなった。



