「ありがとうございます。これ、お店でお勧めの唐揚げなんですけど、夕飯にでも食べてください。」
ペコリと頭を下げて言う。
「わぁ。マジで、嬉しいです。自分唐揚げ大好物なんです。
小春さんはお昼は?
修哉からくれぐれも言われてますので、
これ食べて下さい。」
剣持から、ビニール袋を渡される。
中身を見るとおにぎりが3つ、ペットボトルのお茶。
「えっ。お昼まで用意してもらってすいません。」
「いいんですよ。
修哉の意向ですから、お気になさらず。」
あっ。
なんか先輩が言ってたのが分かるなぁ。
すごく片山くんに似てる。
先輩をリスペクトしてるんだろうな。
ふふっと自然と笑顔になる。
初めに抱いた剣持のイメージは完璧なサラリーマンだったのに、良い意味で打ち砕かれた。
「ありがとうございます。」
鮭のおにぎりを選んで頂きますをして食べる。
剣持がバックミラーでそれを確認して安心した様子で話し始める。
「大変でしたね。ストーカーですか?
修哉が居ればもう大丈夫ですから、安心して下さいね。自分も微力ながらお助け出来ることがあればなんだってしますので。」
「剣持さんは修哉さんのマネージャーなんですね。一緒に居なくて大丈夫なんですか?」
「自分はスケジュール管理と荷物持ちと送迎くらいしか出来ないので、彼が曲作りでこもってる時はほぼ暇なんです。
あれこれ頼まれた物を買いに行ったり、ほぼパシリですから。」
ハハハっと剣持は楽しそうに笑う。
「修哉は今、PVの打ち合わせでちょっと抜けれなくて、6時までにはなんとか区切りつけて終わらせるって言ってたので、
バイトが終わる頃には必ず来ますよ。
心配しないでくださいね。」
私の為に先輩が無理してないか心配になる。
ちゃんと仕事をして欲しいのに、私が邪魔をしてないだろうか?
「忙しい時に、本当に、剣持さんにも修哉さんにも申し訳なくて、私なんかの為に時間を割いて頂いて、何かお礼が出来ればいいんですけど。」
「小春さん、小春さんはもはや修哉の曲作りには欠かせない人ですから、いい曲を作る為にも貴方が元気に居てくれないと困るんです。」
どういう事だろう?先輩の曲と私が元気でいる事にどんな共通点が?
「修哉はこの業界では珍しいくらいクールな人なんです。
普通、歌手を目指す人はいつかビックになってやるとか、
夢と野望で満ち溢れているんですけど、
彼は出会った頃から淡々と曲を作っていて、
なんか職人みたいに冷静なんです。
なのになんでこんなに心に響く曲を作れるんだろって思ってたんです。
本当にこの人が作ってるのかなぁって疑うくらい、ギャップがあるんですよ。
だけど、最近やっと分かりました。
全ては貴方に向けて作っていたって事に。」
熱く語り、剣持はバックミラー越しにニコッ笑う。
「貴方は修哉の総てなんです。唯一無二の存在と言っていい。」
熱い目線を投げかけられ、恥ずかしくなって俯く。
「私は修哉さんにそんな風に思ってもらえるほどの人間ではないんです。」
そこまで思ってもらう資格はないけど、そんな風に成れたら嬉しいなぁとも思う。
「だから貴方を守る事は、修哉の曲を守ること、自分の使命であると思っています。」
熱い人だなぁ。そしてとても良い人。
「私、自信はないんですけどいつか修哉さんの役に立てるように頑張ります。」
ふふっと微笑む。
私、あんなにもう立ち直れ無いって思ってたのに、先輩に会ってからだんだんと気持ちが前向きになっているみたい。
先輩のおかげだ。
それから、コンビニまでの道のりはずっと『YUKI』愛を語る剣持さんの熱い思い一色だった。
そのおかげで落ち込んでいた気持ちも上がって、楽しい時間を過ごす事ができた。
「ありがとうございます。
修哉さんによろしくお伝え下さい。」



