クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

先輩が我が家に転がり込んでから、
5日が過ぎた。

当初は3日ぐらいで帰るだろうと思っていたのに、次の日にはキャリーケース が置かれ、

また次の日にはキーボードが置かれ、いつの間にか先輩の物が増えていった。

車もいつの間にか大家さんと交渉したらしく、敷地隅の空き地が指定席となっている。


今日は土曜日、
久しぶりにバイトの無いお休みだ。

先輩はお仕事なのかな、と昨日寝る前に聞いたところ、休みは自分で作れるからと、小春が休みなら自分も休むと言っていた。

剣持さん大丈夫かな?
私のバイトの終わりを待ってる間、コンビニ前で先輩と剣持さんが話をしてる姿が見た。


朝、
小春は目覚まし無しで起きれる幸せを噛み締めてお布団の中でゴロゴロしていると、ふと目が合う。「エッ!!」一瞬ここはどこ?状態になって目を瞬く。

寝起きの悪い先輩が先に起きてるなんて。
「おはよう。いつ起きるのかと思って見てた。」
「…いつから⁉︎」
「…結構前から。」

「何で起こしてくれなかったんですか?」
慌てて、寝ぐせを治して起き上がる。

ふっと笑って先輩が、
「なんか幸せそうだったから、起こすの可哀想になった。
俺も一緒に入れて。」

いいながら隣にごろんと寝転ぶ。

「えっええ⁉︎」
どうしていいのか、あたふたしてたら

先輩がベッドをトントン叩いて。「ここに寝て」と促す。
 
抵抗も出来ずに、ドキドキしながら横になっる。
頭を腕で支え横になっている先輩との距離は思ったより近くてドギマギする。

どうしよう。
な、なんか喋らなきゃ。妙に焦る。

「小春、今日どこ行きたい?
小春の行きたいとこに遊びに行こう。」

「えっと…お仕事、大丈夫ですか?
昨日、ベンチのとこに剣持さん来てましたよね?」
  
「アレは仕事とは別件の用事だから問題ない。
天気も良さそうだし、山でも海でもちょっと遠出しようか?
それとも映画とかショッピングでもいいし。」

こう言う時の先輩は有無を言わさず駄々っ子だ。困ったなぁ。

せっかくのお休みだし、ずっと運転も疲れるだろうし。先輩ものんびりして欲しい。

「じゃあ。電車に乗って、映画でも行きませんか?」

「何で?車だすよ。」
「ダメです。それじゃあ。先輩が休めませんから。」

修哉は苦笑いして、
「分かった。小春と一緒に居られるなら俺は何だっていい。

その代わり、今日から先輩って呼ぶの禁止な。」

にやっと笑う。

「そうだなぁ。今から先輩って呼んだらペナルティ付けようか。」

「えっ!!だって先輩は先輩だし、名前呼びなんてハードルが高すぎます」

「やなんだよ。なんか壁があるみたいで。
俺は小春と対等な関係になりたい。」

でも。だって今更、呼び方変えるのなんて無理だよ。
なんか恥ずかしいし。
絶対、間違えちゃいそうだし。

思っただけで恥ずかしくなって、急いで反対を向く。

「小春、名前で呼んで見て。まさか、俺の名前忘れてないよね?」


「…しゅ、修哉…さん」
聞き取れないくらい小さな声で呟く。
心音が聞こえちゃうんじゃないかと思うほど、バクバクする。

「もう一度。」

「…修哉さん」
 

今度は修哉が身悶える番だった。
「…破壊力ヤバいな。」
そう言って、先輩はガバッと勢いよく起き上がり、

「車で待ってるから、ゆっくり準備して。
朝ごはん食べに行こう。」
と、早々自分は支度して玄関を出て行った。

言わせたのは先輩なのに、なんで先輩が動揺するのよ。
もう。私が1番はずかしいんだから。

そう思いながらも、おもむろに起き上がり身支度をし始めた。

今日は久しぶりにスカートにしようかな?

クローゼットの中を覗きながら、考え込んでいるとスマホが鳴って先輩からメッセージが届いた。

(変な男が一階のポストの所に居るから、俺がいいよ。って言うまで中にいて。)

なんか新聞とかの勧誘かなぁ?思いながら、(分かりました。)と返信した。