クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜



朝。
朝食のいい匂いと、まな板でトントンと切る小気味いい音がして修哉は自然と目が覚めた。

布団から顔を上げると、キッチンに立つエプロン姿の小春が目に映る。
肘をついて横になった姿勢でしばらくぼんやり見ていたい。

不意に振り返って、
恥ずかしそうに笑う。
「おはようございます」と言う。

夢ならずっと見ていたい。と、修哉は幸せを感じる。

「おはよう。よく眠れたか?」

「ごめんなさい。いつの間にか寝てしまって、先輩が戻ってきたのも分かりませんでした。」

「いいよ。突然転がり込んだのは俺だし。
 
小春は普段のペースで生活してくれればいい。」

時計を見ると朝の6時半、8時出勤の小春の朝は早い。

「こんな早く起きたの久々だな」

「先輩は何時に出勤ですか?
昨日遅かったし、まだ、寝ててくださいね」

「飯作ってくれてるんだろ?

一緒に食べるから。」
優しく微笑む。


布団を片付けて、ラグとテーブルを戻し、甲斐甲斐しく朝食を並べる手伝いをする。

なんか先輩ぽく無いと密かにふふっと笑う。
「何?」

「なんか変な感じですね。 

先輩が私の部屋に居るの。
何か不釣り合いな気がします。」

「俺は意外としっくりきてるんだけど、
ずっと居たいくらい居心地がいい。」

「でも、先輩のうちよりかなり狭いでしょ?

背が高いから、引き戸の垂れ壁に頭打つけそうですし。」

昔ながらの骨組みを残すこの部屋は、ドアの高さが低くて修哉は頭を下げないと通れないくらいだ。

「確かにクマの洞穴みたいだよな。」
そう言って、ソファにいるクマを手に持つ。
結構、古い感じだな。
 
子供の頃から持ってるものなのか?
こんなに大事にされてるクマにちょっと嫉妬する。

「今、家の事。ディスりませんでしたか?」

「褒め言葉だよ…

俺を追い出したら、玄関前に寝袋敷いて寝るからな。」
軽く笑いながら牽制する。

ふふっと笑いながら、「先輩だったら、本当にやりそうで怖い。」と呟く。

朝ご飯を一緒に食べて、

送ると言う修哉に、お皿洗いをお願いしてなんとか押しとどめ、鍵だけ残してそそくさとバイトに出かけて行った。