クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

「本当に狭いですからね。びっくりしないでくださいよ。部屋の事でけち付けたらすぐ追い出しますからね。」

そう言って、怒った風に修哉を睨みつけ、鍵を開ける。

そんな顔しても可愛いだけなんだが、と思いながら微笑し大人しく後について部屋に入った。

「たまによく分からないタイミングで、先輩って駄々っ子みたいになりますよね。」
怒りながら、それでもちゃんとお客さま用スリッパを出し招き入れる。

リノベーション済みの部屋は全フローリングで、思った以上に綺麗で新しかった。

「へぇ。見た目と部屋とのギャップが凄いな」
「今のは、部屋にケチつけたんですか?」
口を尖らかせて言う。

「今のは、褒め言葉だよ。」

部屋は随所に小春らしさがあり、それでいて物は少なくさっぱりしていた。
手前はキッチンと水回り、奥は続き間を一つにしたような作りでリビングと寝室がつながっていた。寝室にはパーテーションが置かれ、ベッドは見えないようになっている。

手前のリビングには白い2人掛けソファがあり、100センチくらいのクマのぬいぐるみが1つ置かれていた。

「これ、まだ今も好きなんだな。」

中学の時、小春が音楽室のピアノの上に忘れたクマの筆箱を思い出す。その忘れ物のおかげで、2人は話すようになったのだ。

「好きな所に座って下さい。お茶ぐらい出しますから」

怒り続けるのを諦め、落ち着いた感じに戻り、お茶を出す為キッチンに向かった。

「小春、もう遅いからお風呂入って寝てくれていい。俺は今からコンビニ行って必要な物買ってくるから。家の鍵だけ貸して。」

と、手を出してくる。
確かにもう12時だ。お客さまを接待するつもりが、ちょっと拍子抜けして、ぽかんとしながら鍵を修哉に渡す。

「ありがとう。
小春、一回だけギュッてしていいか?」
とっさに言われ、手をぎゅっとするのかな?と思い、こくんと頷く。

すると、修哉は大きな体で小春を包み込んでぎゅっと抱きしめた。

どうしていいが分からず、えっ⁉︎っと固まる。

抱きしめたまま、修哉が言う。
「じゃあ。ちょっと行ってくるから、ちゃんと寝てて。俺はそこら辺で寝るから気にしないで」
といい、額の上でチュッとリップ音がしたと思ったら離れて行った。

放心状態になり我に帰ったのは、修哉が締めた玄関のドアの音だった。

 
大人しく言われた通りシャワーを浴びてから寝る支度をしてから、修哉の為にテーブルとラグを隅に寄せ、お布団を敷く。

早々にベッドに入り寝る努力をする。

今日はいろんな事があったな。
まだ、月曜なのになんか疲れたな。
と思いながらいつの間にか寝てしまった。