先輩が連れて行ってくれたのは、
ひと駅先の路地を入った地下にある、
ジャス喫茶風のイタリアンレストランだった。
決して広くわないけどモダンで落ち着いた雰囲気で、流れてくる音楽もとても心地よかった。
お店を入ると隅っこに1台ピアノがひっそり置いてあった。
「素敵…」わぁーと言って小春ひ呟いた。
奥の死角にあるテーブルに通される。
白髪のダンディな男が近づいてきて、
「結城、久しぶり。
最近来ないからどうしてるかと思ったよ。」
修哉に気さくに話しかけてきた。
「すいません。結構忙しくて。お店も最近どうですか?」
「見た通り。まぁ、まぁだよ。
結城が弾かなくなったら、女性客が途端に減って残念だよ。」
笑って言う。
「こちらは?」
ダンディな男が小春に微笑みながら、修哉に聞く。
「地元の後輩、
今口説いてるんだけど、
なかなかいい返事もらえなくて。」
えっ。と、驚いて瞬きをする。
先輩がそう言う事を、他人に言うなんて思ってもいなかったから。
「へぇ。結城が追うなんて珍しいなぁ。
いつも追われて逃げ回ってたのに。」
意味深な事を言う。
修哉は苦笑い。
「ここのオーナーの牧です。よろしく。
お名前聞いても?」
瞬をし、とまどいながら小春は答える。
「櫻井…小春です。初めまして。」
ぺこりと頭を下げる。
「始めまして。小春ちゃん……
なるほど!君が小春ちゃんか。
こんな優良物件なかなかないよ。
僕もお勧めだから。
ぜひ、前向きに考えてやってね。」
そう言って、
「ゆっくり考えてから注文してね。」
とメニューを置いて行ってしまった。
急に先輩と2人っきりになって気まずい。
目が泳ぐ。
「小春は何食べる?
ここはどれも美味しいから。
トマトのパスタとかさっぱりして美味しいし、リゾットもあるから。」
先輩は何事もなかったように、メニューを説明する。
「…何であんな事言ったんですか?」
小声で遠慮がちに聞く。
「だってホントの事だろ?
何度となくアピールしてるのに、まったく動じないから、外堀から埋めようかと思って」
いたずらっ子みたいにニコっと笑う。
戸惑い、困り顔になる。
「先輩は意地悪です。」ムッとした顔をして、睨む。
「駄目だよ。怒った顔も、可愛いだけだ。」
どうしちゃったの?お腹空き過ぎておかしくなっちゃまた!?
修哉は和風スパゲティ、小春はチーズリゾットを注文し、おまけに食後にデザートを小春につけ、自分はコーヒーを頼む。
「先輩、私きっと、デザートまでなんて食べれません。」慌てて小春が言うと、食べれなかったら持って帰ったらいいと言う。
オーダーを取りに来たオーナーはすかさず、
「なんだ、なんか仲良いじゃん。心配して損した。」と言って微笑む。
注文し終わりまた、2人っきりになった。
前菜のサラダを食べながら、修哉ははなしだす。
「ここ。高校の時からお世話になってる店なんだ。ピアノ演奏のバイトもしてたし、家に帰らないで寝泊まりしてた事もある。」
「先輩の大事な場所なんですね。」
小春は妙に納得して、頷く。
「俺の事も少しずつ話してく約束だろ?
だからここが良いと思った。
小春もこう言う所好きだろうと思ったし。」
「ありがとうございます。隠れ家的で、すごく落ち着いてて好きです。
「よかった」
注文したパスタとリゾットが届いて、
2人はたわいのない話をしをしながら、食事を楽しんだ。



