今日は月曜日、お弁当屋さんはお昼のランチタイムに向けて大忙しだ。

先輩は今日も近くのスタジオにいるらしい。

(先輩のお仕事って何ですか?)
昨夜、メッセージなら聞けると思って勇気を出して単刀直入に聞いたのに
(今は内緒)としか返ってこなかった。

もう『先輩はあの『YUKI』ですか?』って聞いた方がスッキリするんじゃ無いかな?

そんな事を考えながら、大量のコロッケを揚げていた。


「小春ちゃん。
この前行ってもらったスタジオから注文が入ったんだけど、配達お願い出来る?

小春ちゃんの事、指名されちゃったのよねー。揚げ物は私が変わるから。」
店長が困り顔で声をかけてきた。

「分かりました。
じゃあ。準備して行ってきます。」

「一応、小春ちゃんは配達員じゃ無いので、って断ったのよー。
業界の人って押しが強くて困るわ。」

そう言う店長だって元モデルをしていたらしい、アラフォーの美魔女だったりする。

「次は来れないって言っちゃっていいからねー。」

「…言えたら、いいます。」
苦笑いしながら小春は、推しの強い人に弱いんだよなぁ、と先輩を思い出しながら言う。

「行ってきます。」と、急いで出掛ける準備して、
大きな保冷バッグを肩にかけてお店の外に飛び出す。

もし、先輩に会ったらどうすればいいんだろう?
やっぱり知り合いじゃ無いふりした方がいいのかなぁ?

今度、ちゃんと聞いてみなくっちゃ。

そんな事を考えながら歩いていると、すぐにスタジオが入るビルに到着した。

入口を入って受付に行こうとすると、不意に声をかけられる。

「こんにちは。櫻井さんですね。」 

びっくりして声の方を見上げると、黒縁メガネの男がにこや笑いながら立っていた。

通行許可証を首からかけられ、お弁当の入った荷物を「持ちます。」と言って奪われた。

「あっ。ありがとうございます。
えっと、お弁当ご注文の方ですか?」

「いえ、ディレクターが注文しまして、
私は修哉の指示でお迎えにあがりました。」

「えっ!!」
とびっくりして、どこまで知ってるのか動揺する。

てっきり先輩はひた隠しにするのかと思っていたのに。

「支払いは上に居る者がするので、
すいませんがついて来てください。」

「あの…。あなたは?」

「あっ。もうし遅れました。

私は修哉の…マ、いや同僚の剣持と言います。以後お見知りおきを」

剣持はマネージャーと言おうとして慌てて取り繕う。
修哉からは、彼女に『YUKI』の事を隠すように言われている。

ついさっき頼まれて、急いで迎えに来たものの、修哉からは詳しく彼女との関係を聞かされていなかったため下手な事は言えない。

何者なんだと、エレベーターに向かいながら剣持は、また思う。 

一見普通の子なんだけど、素朴な可愛さが修哉の雰囲気は不釣り合いな気がするけど、
 
ちょっとこの先の展開にワクワクしている。

何にしろ、2人を守らなければ、と強く決意した。
「あの、しゅ、修哉さんからは何て?」
恐る恐る聞く。

「自分にはただ、櫻井さんを手伝ってって事と、ディレクターから守れって指示がありました。」
にやっと笑う。
 
小春はちょっと警戒する。