「香山支店長。私は貴方が上司だったから、貴方の指示に従っただけで、本当は2人切りになるのは嫌だったし、怖かったんです。

美容院を辞めたのも貴方のセクハラに耐えられ無かったから。怖くて行けなくなってしまったんです。」
目には涙を溜め震えながら、でもはっきりと小春は言う。

「お願いですから、もう2度と私の前に現れないで下さい。」

小春の言葉を信じられないと言う顔で香山は見る。
「小春?いつも笑いかけてくれたじゃないか?俺の事尊敬してるんだろ?
どうしたんだよ。そいつに何か誑かされたんだろ?」

「違います。泉先生は私を助ける為に来てくれたんです。貴方に怯えて生活するのはもう耐えられ無い。」
小春は我慢出来なくなって、両手で顔を覆い泣き出す。

「そう言う事です。」
泉は立ち上がりながらそう言い、
「櫻井さん、頑張りましたね。
ありがとうございます。もう後は大丈夫ですから、お帰りください。」

そう言って修哉を見て頷く。

修哉も立ち上がり、小春にハンカチを渡しながら、
「行こう。」
と一言声をかけてお店から連れ出す。

「ちょっと待って。」
香山が慌てて小春の手首を掴もうとする。

修哉が掴まれそうになった小春の手を素早く握り、「触るな。」と威嚇する。

ここで初めて、修哉と香山の目が合う。
「お前誰だ?」
修哉は答えようとする。

「先輩!ダメ。」
小春は急いでそれを止める。
「早く行きましょ。」
修哉が握ってる小春の手を引っ張って出ようと促す。

「小春、一言だけ言わせて。

あんた。2度と小春の前に現れるな。
次会った時はただじゃおかないからな。」
鋭い目線で言い放ち、踵を返して小春を連れて店を後にする。

残った泉は冷静に香山に着席を促し、こう付け加える。
「あの人、空手の有段者なんで敵に回さない方が身の為ですよ。ちなみに私も有段者です。」
不敵な笑いを浮かべながら泉は言い放つ。
「では、法的な手続きに入らせて頂きます。」