まずはエルムを助け出さないと……でも、あたしすら霧に包囲されてしまった状態だもの。一体どうやってエルムの許へ向かえるというの!?

 先程までのサリファのように、あたしも取り乱してキョロキョロとしてしまった。けれどそんなあたしの視界の端に、幽かなゆらめきが映り込んだ。あたしが飛び降りた穴から……えぇ──と? あ、あたしっ!? まさか「あたし」が小さく手を振っている!?

 あ、いや……あの「あたし」はきっとエルムだ! つまり山頂で捕縛されているエルムは幻影そのもので、トンネルの入り口で振り返って見た「エルムにしがみつかれていたあたし」が、幻影を(まと)ったエルムだったのだ! だったらエルムは大丈夫!! ならば気付かれていない今の内に──リトス!!

「あ……!」

 あたしの心の声に呼応した『ラヴェンダー・ジュエル』から、まるで真っ黒い鉱石のような小さな粒がぽろりポロリと零れ出してきた! 溢れかえる暗黒色の石が、列をなすようにラインを描きながら流れてゆく。まるで雨の如く上から下へと海を目指して──ううん、行き先はインターデビルだ──リトスがヴェルで二千六百年の間に抽出し続けた悪い心は、悪魔の口に吸い取られていった。

『な、なんということを……! エルムがどうなっても良いというかっ!?』

 サリファの触手は放出される悪意の粒を、必死に(すく)い取ろうとしたが叶わなかった。代わりにその先端が少しずつジュエルに絡め取られてゆく。宙に浮かんだままのあたしの瞳(ジュエル)は赤黒い霧を小さな結晶へ変えて、シュクリからインターデビルへと仲介役さながら受け渡していった。