『われがこんな小国で満足すると思ったか? 全ては世界を手に入れる為の布石よ……二十年前と三十年前の我が息子(ウェスティ)の功績を覚えておろう? あれはジュエル継承者の「種」を根絶やしにすることだけが目的だったわけじゃない……ヴェルを世界の中心へ()し上げる為の下準備さ。リルヴィ、お前が斬ったエルムの糸のように、ウェスティはヴェルから世界中へ『糸』を張り巡らせていたのだよ。つまり、これからその糸を辿って、ヴェルが世界を支配するのさ……!』
「ヴェルが……!?」

 二十年前・三十年前──国外の王族や三家系の子孫を虐殺するため、ウェスティが各国を巡ったあの時。サリファはヴェルにいながらそんな細工を仕込ませていた……!?

 悦びの笑い声が響き渡り、霧はあたし達の頭上でメリーゴーランドの天井の如くグルグルと回転した。が、それも一瞬の内に──ピタリと止まった!?

『……ちぃっ! 不完全であったか……? まぁ良い。本体は後でどうにでもなる。シュクリさえ手に入れればこちらのモノだ』

 サリファの独り言に、エルムもまた動きを止めた。何かを感じ取ろうと神経を研ぎ澄ませているみたい。やがて哀しそうな表情でこちらを向いたエルムは、サリファに聞こえないように小声であたしに呟いた。