「戻ってきたら──ちゃんと話すね」
「……分かりました。リルヴィ、どうか……どうか、ご無事で」
「うん、行ってくるね! ビビ先生、おばちゃんのこと、くれぐれも宜しくお願いします!」
「はっ……はい!!」

 自分を宜しくと言われてキョトンとしたツパおばちゃんの(まなこ)に、あたしはニッコリ絶品のウィンクを投げて、クルりと背を向け紅い渦の中心を見上げた。

 ここまでの会話を余裕で待っているサリファの蠢きは、まるで「あたし」が、「ジュエル」が、いざやって来るのを、愉しそうに待ち構えているみたいだった。

「リル、これを」

 いつの間にか隣に佇んだパパから、そっと手渡される「黒い布きれ」と「剣」。広げずとも気付いていた。これ……パパが昔から使っているマントだ。ジュエルの力があれば、空も飛べるパパのマント!

「ありがとう、パパ」
「くれぐれもママを心配させることのないように、ね」

 パパの片方だけの瞳が震えている。まるで涙を(こら)えるように……でも、大丈夫だよ、パパ。あたしには確信があるんだ。全てを終わらせるために、あたしは生まれてきたのだって!!

「ジュエル、娘を頼むよ」

 パパの沈痛な祈りに、ジュエルは応えるように鮮やかに輝き、

「パパ、みんな……行ってきます!」

 パパとの熱い抱擁は、サリファの激しくうねる竜巻によって一瞬の内に引き裂かれた。

「リル──っ!!」

 紅く染められた煙る視界を、ジュエルの薄紫色の光が灯す。パパの必死な叫びを背に浴びながら、あたしはジュエルが切り開いた細い空洞を、サリファに導かれるように進んでいった──!!