「自宅へ戻って母親から意味を教えてもらった時には、それは驚いたものでした。わたしはそれから一ヶ月、胸を高鳴らせながら彼女の帰りを待ちました。幼心にも自分が彼女に恋していることに気付いたのでしょうね。日に日に彼女の申し出が嬉しく思え、彼女の帰国と婚約の実現が焦がれるほど待ち遠しくなった。ですが……残念ながら、彼女はそれきり戻ってきませんでした」
「……え? ど、どうしてですか!? ……あっ……えっ!?」

 あたしは飛び上がりそうになる背筋を伸ばし、ビビ先生の哀しげな瞳を見上げた。先生が九歳、彼女は十一歳……先生が九歳って……それって、まさか──!!

「気付いたみたいですね。そう……わたしの幼馴染はラヴェル様の先代、『ラヴェンダー・ジュエル』の力を得て虐殺を行なったウェスティに殺された……偶然にも彼女がヴェルから出てしまったが為に……」
「そ、んな……」

 三十年前も二十年前も、虐殺のターゲットになったのは「国外に住む」王族の血縁と、そしてあたし達【三家系】の一族だった。もしも彼女がヴェルにいたら殺されることはなかったのに……でもターゲットになったのって……つまりその彼女って……。

「わたしの幼馴染は……ツパイと同じ【癒しの民】(ユングフラウ)の少女だったのです」
「あ……」

 ツパおばちゃんの親戚なんだ……。