『スティを倒して二年後、眠りから覚めて一番気に掛かったのは、スティと共に結界に閉じ込められたサリファのことだった。彼女はスティが結界を破った後も姿を見せなかったから、きっと亡くなったものだと思っていたのだけど……その件に触れる度、ツパが話を(かわ)そうとするのがずっと心に引っ掛かっていたんだ。実は数日前にロガールから手紙が届いて、三年後の体制改編の折に、ツパを首相に任命したいと、今回の昼食会でその推薦を公表すると打ち明けられていた。もしもツパがまだサリファに縛りつけられているのなら、彼女はきっと承諾しない。だから……その鎖を断ち切るのなら今だって……』
『ラヴェル……』

 見えなかった糸の端が色を染めて、またあたしの前を流れる道筋の続きとなった。この糸が紡ぐ先は、次にどんな色彩を見せるのだろう? 現れた先端はどちらの方角を示すのだろう?

 ママがパパを切なそうに呼び、抱き締めて、ピータンはパパの肩に乗り、いつものように頬ずりをした。二人と一匹から湧き上がる愛情の熱が、あたしの心にも届いて胸の奥が温かくなる。もう少し見ていたいのに、映像を伝える瞼の上にまどろみが落ちてきてしまった。

『でも、もう一つ……動いた理由があるのでしょ、“パパ”?』

 パパのもう一つの理由?

 ママの「お見通しらしき」問い掛けは、楽しそうな笑みを含んでいた。その調子にパパも薄っすらと苦笑いを返す。一体どんな理由があるというのかしら??

 けれど閉じた瞼の裏にはもう何も映し出されないまま、あたしは眠りの海へ沈み込んでしまった──。