『タランティーナさん、そろそろお話はまとまりましたか? こちらの準備は万端です。いつでも出発出来ますよ』

 ジュエルをお腹に入れたピータンの視線が動いた。丁寧で優しい声色に、全員の気持ちが戸口へ向かう。

『あ、イイところに来たわ。その前にワタシのことはタラでイイわヨ。で……ツパイったらネ~』
『タ、タラ!!』

 みんなの許へ現れたのは、予想通りの背が高く屈強な身体つき。短い焦げ茶色の髪と、浅黒い肌がいかにも弓の名士って感じだ。年齢はツパおばちゃんの外見と同じ二十代後半くらいかな。ゆっくりと近付く縦にも横にも大きな影が、一番近くに立っていたおばちゃんの小さな身体に影を落とした。

『どうかされたのですか、ツパイ?』
『あ……い、いえ……』

 振り返ったおばちゃんの正面に腰を屈め、羽が触れるように柔らかく、おばちゃんの頭に手を添えたお師匠様は、その仕草も笑顔もまるで陽だまりのように温かかった。

『ご無事で何よりでした。これでも心配していたのですよ』
『お、恐れ入ります……師よ』

 恐縮したおばちゃんにニコリと笑い、お師匠様は再び身を起こした。やがてゆったりと(ひざまず)き、全員を見渡したのち、パパに向かって(こうべ)を垂れた。

『改めまして、お初にお目に掛かります、ラヴェル様。ビビアン=ヴェル=グレイと申します。以後どうぞお見知り置きを』(註1)

 これこそ真の騎士(ナイト)かも!? 上げられた微笑みは「生命のある(ビビアン)」という名にふさわしく、眩しいほどの輝きを放ちながら、いつの間にか全員を魅了していた──!!



[註1]ビビアン:アルファベット表記は「Vivian」ですので、正式には「ヴィヴィアン」であるのですが、リルヴィ、ラヴェルと「ヴ」の付く名前が多いので(苦笑)、彼の名は「ビビアン」とさせていただきました。