「ラヴェル……お願い、わたしのことは放って逃げて!」

 ──……え?

 まるで絵のようだった無声の映像から、ふと聞こえてきたのはママの声だった。でも……ちょっと待って。あたしの隣にママはいる。なのにあの悲痛な声が発せられたのは、赤い光(サリファ)の中心からだ。

 そして確かに、赤く染められたママの姿がそこにあった!?

「ルヴィ、惑わされないで。あれはきっとサリファが造り出した幻影よ」
「え? そ、そうだよね……どうしよう、パパに早く知らせないと!」

 冷静に答えるママの横顔を見ても、あたしはつい焦燥した。タイミングを見計らって叫ぶなり飛び出しても、ヘタをしたらサリファの攻撃がパパ達に及びかねない。それにもしこちらにも攻撃が来てしまったら、防ぎようがないに違いない。

「ラヴェル、お願いだから退却して!」
「ユーシィ……」

 幻影のママは依然パパに説得を試みていた。

 一体サリファはどうしようというのだろう? どういう意図で幻影のママを喋らせているの!?

「わたしには分かってるわ……また『ジュエル』に祈るつもりなのでしょ? 『鍵の付いた祈り』で、サリファを「居なかったことにする」つもりなのでしょ? ダメよ! そんなことして貴方が消えるくらいなら、わたしが先に舌を噛んで死ぬんだから!!」
「……う……」
「ええ……?」

 幻影ママがまるで見抜いたかのように告げた『鍵の付いた祈り』。それは昔パパがジュエルを亡きものにしようとして、自分の命と引き換えに発令した唯一無二の魔法だった。あの時はママがギリギリ解除する『鍵』を見つけ、パパは二年弱の眠りについただけで済んだけれど……もしパパが本当にそのつもりだったなら! パパは今度こそ死んでしまうかも知れない!?