「では……そろそろ明かさねばなりませんね」

 パパはアッシュから全てを聞いて、あたし達がココにいる理由も経緯も既に分かっていた。と言っても、理解はすれども納得はしていないらしい。お陰で輪状に並んだあたしの隣、パパは時々こちらに目をやっては、あからさまに大きな溜息をついてみせた。

 ツパおばちゃんが追いかけてきたことには薄々勘付いていたらしかった。だからこそパパは山頂を目指すところを横に逸れて、先にこちらと合流したのだ。その追いかけてきた原因を、あたし達にも教えてくれるのだろう、ツパおばちゃんが神妙に言葉を紡ぎ始めた。

「時は、二千六百年前に(さかのぼ)ります」

 やっぱり出てきた。一つ目のキーワード──『二千六百年』。

 そんな大昔に一体何が起きて、この国の歴史が動き出したというのだろう?

 パパはもうこの辺りのお話を知っているようで、アッシュとルクとあたしの三人だけが、ゴクリと固唾(かたず)を呑んで頷いた。

「ヴェルの起源はその頃より始まります。かつてこの地は、空にも浮かばず島国でもありませんでした。ヨーロッパ大陸の西、大西洋に突き出た小さな半島に過ぎなかったのです」

 ええ~? そんなの初耳!

 みんなの緊張した面持ちが、理解したことを示すように再び頷く。慌ててあたしも首を上下させた。まさかココが大きな陸地の一部だったなんて……。

「その頃大陸では多くの民族がせめぎあい、ありとあらゆる地域で戦いが行なわれていました。穏やかな港町であった筈のヴェルも例外ではなく、内陸で強大化した武装勢力の襲来によって……僅か一日で、ほぼ殲滅(せんめつ)に到りました」
「え……?」

 悲しみを(にじ)ませたツパおばちゃんの言葉の最後に、あたしは思わず驚きの声を上げていた。ほぼ殲滅って……ほとんど殺されてしまったって意味、だよね?