「──リルっ!!」
「えっ!?」

 赤の脅威に襲われる寸前、その呼び声と共に身体が何かに囲われて、あたしは危機一髪助けられていた。リルって……アッシュなの? ううん、違う……この声を間違える訳がない! あたしを抱き締めるのは──ずっと会いたかった……パパだっ!!

「パパっ!!」
「大丈夫か!? 一体、これは……?」

 ああ……パパが真ん前にいる! あたしを包み込んで、心配そうに見下ろしている。このぬくもりも触れる大きな手の質感も、あたしがパパに守られていることを教えてくれていた。

「お願い、サリファ……みんなを、ママを返して!!」

 あたしはパパの抱擁の中で振り返って、もう一度目の前で揺らぐ炎に懇願した。ツパおばちゃんがザイーダに襲われた時には遠くにあった『ラヴェンダー・ジュエル』も、今はすぐ真後ろのパパに宿されているのだ。あたしはサリファに叫びながら、心の中で『ジュエル』に祈った。なのにジュエルは何も応えず、サリファももう攻撃してくる装いは見せなかった。

「サリファ、お願い……お願い、だから!!」
「リル……これ以上は」

 パパが心配して、あたしの腕を畳ませた。と同時に焔の威力も衰えていく。やがて元の焚き火に戻って見えた向こう側に、三人と一匹の倒れ伏す姿が現れた。

「おばちゃん! アイガー!!」

 あたしはパパの腕の中から、まずはツパおばちゃんとアイガーに駆け寄った。腰掛けていた筈の焚き火の傍から見ても随分遠い。化け物みたいに大きくなった火の勢いで、吹き飛ばされてしまったのだろうか?