ずるいわよ、本当にずるい男。恥じらいすらなく、私の手を握るだなんて。初めてだったのに、男の人に触れるの……。

 ダメ、止まってよ私の心音。
 これ以上大きくなったら、龍二に聞こえちゃうじゃないの。
 それに鏡……私の顔って今どうなってるのかしら。いつもの顔……じゃないよねきっと。

「どこか具合でも悪いのかい、ハニー? なんだか顔がほんのり赤いよ」
「──!?」

 もう、この男は……。顔、近づけるのも反則だよ。
 待って、待ちなさい神楽耶。こんなのは私じゃないわよ。これじゃまるで……。

「な、なんでもないわよ。私は平気だから、その、顔、近い、から」
「それは失礼したよ。僕としたことが、ハニーの気持ちを理解していなかっただなんて」
「だから、早く顔を離して、よ。でないと……。──!?」

 今、何が起きたの。確かに龍二は離れてくれた。でも、その前に私の額へ何か触れる感触がしたような。まさか、まさか、まさか……。

「り、龍二。今、私に何かした、わよね?」
「もちろんさ、ハニー。元気になるおまじないに決まってるじゃないか」
「い、一応、聞くけど、そのおまじないって……」

 思いすごしであって欲しい。
 今、私が想像しているものなど、きっと妄想だと否定して欲しい。
 でなければ、私は……。

「僕の唇でハニーのおでこから、邪悪なモノを吸い出したのさ」
「それって……。キ、スよね?」
「そうとも言えるねっ。そっか、泣くほど嬉しかったんだね。勇気を出した甲斐があったよ」

 泣く、私が泣いてるとでもいうの? どうして、驚いたからなの、それとも、悔しくてなの。ううん、両方とも違うわよ。

 だって私の顔は、鏡を見なくても分かるぐらい、真っ赤に染まってしまったのだから。