〈なにかあったのか〉
問うというより、穏やかに語りかける口調だ。
「えっ、なにかって…」
図星を指されすぎて、答える言葉が見つからない。
今日の午後事務所で見かけたとき顔色が悪かった、と彼は直入に言った。
〈体調が悪いのか?〉
「そ、そんなことないです。ないから…だいじょうぶ」
会社では上司だから、いまだに丁寧語の切り替えに迷うときがある。
〈じゃあ、仕事でトラブルでも?〉
「そんなにわたし…変だった?」
ああ、という返事には確信の響きがあった。
〈顔がこわばっていて、明里のいつもの溌剌とした明るさがなかった〉
そこまで表情や態度に出てしまっていたなんて、社会人としての自信も失ってしまう。
恋人が心配してくれる優しさは嬉しいけど…いや、恋人なんて表現していいんだろうか。
その資格がわたしにあるんだろうか。
お客様の着付けで失敗してしまったの、と混乱した頭を抱えながら、ごまかしの言葉を並べる。
「ほんとにそれだけのことだから、心配かけてごめんなさい」
問うというより、穏やかに語りかける口調だ。
「えっ、なにかって…」
図星を指されすぎて、答える言葉が見つからない。
今日の午後事務所で見かけたとき顔色が悪かった、と彼は直入に言った。
〈体調が悪いのか?〉
「そ、そんなことないです。ないから…だいじょうぶ」
会社では上司だから、いまだに丁寧語の切り替えに迷うときがある。
〈じゃあ、仕事でトラブルでも?〉
「そんなにわたし…変だった?」
ああ、という返事には確信の響きがあった。
〈顔がこわばっていて、明里のいつもの溌剌とした明るさがなかった〉
そこまで表情や態度に出てしまっていたなんて、社会人としての自信も失ってしまう。
恋人が心配してくれる優しさは嬉しいけど…いや、恋人なんて表現していいんだろうか。
その資格がわたしにあるんだろうか。
お客様の着付けで失敗してしまったの、と混乱した頭を抱えながら、ごまかしの言葉を並べる。
「ほんとにそれだけのことだから、心配かけてごめんなさい」



![he said , she said[完結編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1737557-thumb.jpg?t=20250401005900)